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2008年12月10日

HD DVD 『戦場のピアニスト』

戦場のピアニスト [HD DVD]

『戦場のピアニスト』( The Pianist )は2002年のポーランド・フランス・ドイツ・イギリス合作映画。
残念ながら 日本でもアメリカでも BD 化されておらず、HD で楽しむには HD DVD で観るしかない。
当方は Xbox 360 のオプションの HD DVD ドライブを所有しているので、HD DVD を観ることができる。
BD プレイヤーも HD DVD プレイヤーも両方あって良かった。

本作の監督はロマン・ポランスキー。
彼の映画は『オリバー・ツイスト』しか観たことがないが、ロンドンの貧民街を再現したセットや陰鬱な雰囲気の映像は未だに印象深い。
彼はポーランド出身で、少年期にはワルシャワ・ゲットーでの暮らしから逃げ延びた経験があるという。
今から思えば、『オリバー・ツイスト』の暗さもその経験が投影されているのかもしれない。
本作はそんな彼のために用意されていたかのような題材だ。

ストーリーはユダヤ系ポーランド人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンが1946年に著した体験記がベースになっていて、ポランスキーの体験も織り交ぜられている。
1939年にドイツがポーランドに侵攻。
ワルシャワでそこそこ裕福な暮らしをしていたシュピルマン一家は、当初イギリスとフランスの対ドイツ宣戦布告を知って事態を楽観していたが、ドイツのユダヤ人弾圧は順調に進行し、ゲットーに強制移住させられ追い詰められていく。
シュピルマンは家族と共に絶滅収容所送りになる寸前、一人だけ難を逃れることができた。
そこから彼はは旧友の助力を得ながら、徐々に崩壊していくワルシャワの街でドイツ軍とポーランド市民から身を隠しサバイバル生活を送ることになる。

事実を基にした物語で、下手に脚色するのも憚られる題材だからだろう、物語は淡々と進む。
BGM による演出も、皆無だったのではと思うくらい記憶にない。
その分、主人公によるピアノ演奏が際立つことになる。
そういえば主人公を助けるドイツ人将校の伏線として、かすかにベートーベンの「月光」が流れていたが、空耳なのか BGM なのか伏線なのか最初は判らなかった。
それくらい静かな映画だ。

『戦場のピアニスト』とあるから、従軍して野原や森でドンパチやったピアニストの話とばかり思っていたのだが、シュピルマンはワルシャワから外には出ない。
戦場というのは、ゲットーでの反乱やワルシャワ蜂起が起きたワルシャワの街のことだった。
シュピルマンは銃を取って戦うことはない。
逃げるだけの無力な男であって、英雄ではない。
ただし、蜂起の模様を目撃したり、潜伏先が戦車の砲撃や火炎放射を食らったりとアクション的な見せ場は一応ある。

史実がそうであるように、人々は呆気なく死んでいく。
死者の尊厳などない。
銃撃された途端に車で轢かれたり、道端で積み重ねられて野焼きにされたりする。
かといって、ユダヤ人が一方的に被害者で、ドイツ人が一方的に加害者であるという描き方もしていない。
ユダヤ人にはドイツ人に協力して同胞を弾圧する側に回っている者がいるし、かと思えばそんな悪いユダヤ人やドイツ人将校によってシュピルマンが命を救われるのである。
主人公が運頼みで助かるのは物語としては不恰好だが、どんな物語よりも凄惨で痛々しい現実の出来事の描写を優先しているのだから仕方がない。

『オリバー・ツイスト』で感心した絵づくりは、本作では一層インパクトが強かった。
監督自身も当事者で戦禍の生き残りだけに嘘を描きたくないからか、妥協を許していないように思われる。
ワルシャワの街並みやゲットーの様子など、セットなのか本物なのか区別がつかない。
圧巻は、クライマックスの破壊されつくしたワルシャワにシュピルマンが立ち尽くすシーン。
HD DVD のパッケージの表にも採用されているが、ドイツに存在した古い建物群を実際に破壊して撮影したのだというから恐れ入る。
ディテールの細かさは DVD ではなく、是非 HD 画質で体験するべきだ。

シュピルマン役のエイドリアン・ブロディも素晴らしい。
代役を使わずに実際にピアノを弾いてるようだし、知的さと無力さがよく出ている。
そりゃこの作品でアカデミー主演男優賞も取るわ。
ハリウッド俳優ぽくない、ハンサムではない面構えなのもいい。

間違いなく良作。
BD 版が早く発売されることを望む。
権利を持ってる会社が2008年12月になってようやく 映画 BD のリリースを始めるようなので、期待は持てそうだ。

投稿者 Dormeur : 2008年12月10日 23:54

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コメント

これ、よかったですよね。2003年に見に行った映画(15本)の中でいちばんでした。
クライマックスのピアノの演奏シーン、あの同じ曲を、あとでCDで聴いても、あの張りつめた感じが出ない。
その点で、「文脈」というのはすごいと感心した憶えがあります。

投稿者 rekibo : 2008年12月12日 01:42

クライマックスのピアノというと、撮影現場で女性スタッフが感動に身を震わしていた、とメイキングでポランスキーが語っていたシーンですね。
撮影時、暖房を入れてなくて実際とても寒かったとか。
映像は受け手の意識を誘導・規定しますから、音楽の印象も左右されますね。
同じ曲でもエンディングで聴くといい曲に聴こえることがあるのも同様の原理で。

投稿者 Dormeur : 2008年12月13日 00:24

>主人公が運頼みで助かるのは物語としては不恰好だが、どんな物語よりも凄惨で痛々しい現実の出来事の描写を優先しているのだから仕方がない。

 この作品では、主人公は物語の中心であると同時に時代の観察者の視点として表現されているのではなかろうか。

 ロマン・ポランランスキーといえば、小生の世代の人間にとっては「ローズマリーの赤ちゃん」(あぁ、小生があまり好まないジャンル「ホラー映画」の名作だぁ)の監督としてなじみ深い人物である。

投稿者 pou-fou : 2008年12月15日 23:20

>この作品では、主人公は物語の中心であると同時に時代の観察者の視点として表現されているのではなかろうか。

いや、確かにそういう面もあるんでしょうが、ここで言いたいのはもしシュピルマンが創作物語の主人公なら「親ナチ化した旧友が土壇場で助けてくれたり、出くわしたナチス将校が芸術に理解があってユダヤ人でも匿ってくれる善人だったりなんて都合よすぎるだろ」とツッコミを入れたくなるだろうな、ということです。

ポランスキーって、もう40年ぐらい映画監督やってますよね。
エリック・ロメールとかクリント・イーストウッドとかウッディ・アレンとか、名のある人は年食っても元気だわ。

投稿者 Dormeur : 2008年12月16日 21:15

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