3 novembre 2008

『果てしなく青い、この空の下で…。』

『果てしなく青い、この空の下で…。』は2000年に発売された成人向けノベル型アドベンチャーゲーム。
メーカーの Web サイトで見たとき、タイトルといいキャラクターデザインといい、雰囲気のよさそうな作品だな、消えていく田舎を舞台にした叙情的恋愛ものかな、と思っていたのだが、実際は違うのだという。
なるほど、プレイしてみたらいい意味で裏切られる隠れた良作だった。


物語の舞台は山々に囲まれた平和な寒村。
過疎化が進行するこの村で、主人公の少年の通う学園は全校生徒わずか6名。
あと1年で閉校することが決まった。
残る1年をどう過ごすか、生徒たちはそれぞれの思惑を胸に秘めながら日々を送ろうとしていた。
そんな彼らの運命は、村の開発を通じて村を牛耳ろうとする悪徳事業家と、村に語り継がれる「ヤマノカミ」の伝説によって翻弄されることになる。

1つのシナリオは始業式、春、夏、秋、冬の5つのパートで構成される。
春から夏にかけては不穏さがちらつきながらも、田舎の穏やかな日常が描かれる。
ここで5名のヒロインのうち、誰と物語を進行させるがが確定する。
しかし夏の終わりから秋にかけて、主人公たちの状況は暗転し、冬にそれは破滅的な様相を見せる。
始業式を春に組み入れれば、「春夏秋冬」が「起承転結」に対応している。

物語の序盤は学園恋愛ものを思わせ、正直言って退屈。
やる気がなくなってしばしばプレイを中断していた。
しかし中盤に入りオカルトやホラー、ミステリーの要素が露わになると俄然面白くなってくる。
展開によっては洞窟探検や仕掛け扉の開閉のイベントがありゲーム性がある。
ジャンルで言えば伝奇ものに当たるだろうが、主人公が秘められた超能力に目覚めて大活躍するなんてことはなく、主人公は怪奇に巻き込まれて困惑し恐怖する等身大の人物である。
超能力に目覚めたヒロイン同士が得物を手に戦いあうなんてこともない。

村に起こる一連の事件が物語を貫く軸として据えられており、主人公が共に過ごすヒロインの違いによってその事件が様々な角度から見える。
主人公が共に過ごしていないヒロインは、秋になるとある者は心を病み、ある者は行方不明になり、ある者は村外へと出て行き、ある者は不思議な発言を繰り返す。
彼女たちに何が起こったのか、どんな思惑があったのか。
他のヒロインと結末を迎えることで少しずつ謎が明らかになっていき、全てのヒロインと結末を迎えたとき全貌が明らかになる。
マルチエンディング方式を生かしてプレイヤーの意欲を誘う、巧みな構成だ。
バッド・エンドに向かうシナリオはクライマックス付近までほとんどグッド・エンドと同じ展開なので手間がかかるが、滅びの悲しさがありバッド・エンドでしか見ることができない一枚絵もあるのでそれなりに楽しめる。
ただ、文乃ルートは事件の根幹のネタバレになるのに最初からクリア可能なので、最初から文乃ルートをクリアすると残りのヒロインは消化試合気味になる。
「文乃以外の4人のヒロインをクリアすると、文乃ルートに入る選択肢が現れる」という形がベストだったと思う。
新規プレイヤーには文乃ルートを一番後回しにすることをオススメする。

ちなみにヒロイン全員のグッド・エンドを見ると、大団円的なエピローグがつくとともに、ラブコメ調のおまけシナリオを読むことができるようになる。
また、一度もバッド・エンドを見ずにヒロイン全員のグッド・エンドを見ると、主人公とヒロインたちの簡単な後日談を見ることができる。

5名のヒロインはそれぞれ直接的・間接的に事件とオカルト設定に関与していて、誰一人欠けても事件とオカルト設定が成立しない。
つまり無駄な人物が居ないということであり、物語世界として非常にまとまりがいい。
主人公とヒロインの濡れ場も単純に恋愛要素を盛り上げるためだけではなく、シナリオ展開上の必然性がある。
本作はプレイステーション用に移植されているのだが、暴力表現やキスを越える性描写が許されていないプレイステーションでどうやってシナリオ上の辻褄を合わせているのか心配になるほどだ。(調べてみるとやはり評判は芳しくない。移植版で書き直しを担当したと称する人物の blog によると、製作にあたってひと悶着あり納得していないようだ)
ただ、プロットが優れているだけに明かされない謎がいくつかあるのは残念。

ヒロインたちはメイド、巫女、猫耳元気娘、メガネっ娘、無口とそれぞれ「萌え」の記号が与えられてはいるが、それらは前面に出ておらず抑制されている。
一般的な美少女ゲームやアニメのキャラクターのように髪の毛が赤かったり黄色かったり青かったりせず、全員黒髪である。
学園の女子生徒用制服も白いブラウスと黒いサスペンダースカートの組み合わせをアレンジしたもので、奇抜な色彩をしていない。
キャラクターデザインを手がけているのは、ロリコンマンガ雑誌なのにノスタルジックな表紙デザインで知る人ぞ知る「 COMIC LO 」の表紙を描いているたかみち。
背景画の製作はアニメスタジオの J.C.STUDIO で、自社作品のサンプルとして web サイトに展示されている。
総じて地味な田舎という雰囲気を作り出すことに注意が払われていて、それは成功しているように思える。

ちなみに本作の舞台である安曇村は、現実に長野県に存在した安曇村(現在の松本市安曇)とは違うらしい。
背景画は、通学路、学園の校舎、主人公の自宅、商店の建物は奈良県宇陀郡御杖村のものがモデル。
穂村神社は大阪府柏原市の鐸比古鐸比売神社がモデル。
隣町の駅は門司駅の旧駅舎がモデルだそうな。

本作では主人公とヒロインの父親がシナリオ展開に関わっているというのも特徴的だ。
行方不明だったり出稼ぎ中だったりする人物は別にして、父親にもちゃんと立ち絵が用意されている。
逆に母親は排除されていて、学園唯一の教師である女性が生徒たちの母親的な位置づけにあるものの母性はあまり強調されていない。
女性教師以外に大人の女性がほとんど登場せず、悪徳事業家、ヤクザ、警官、男性の村人が立ち絵つきで登場するところを見ると、無力な少年少女たちに対比する形で、「抑圧・権力としての大人」を描くために男性への偏りがあるのだろう。

システム面の特徴は、通常のシーンでは画面が縦に2分割され、左に主人公が見ている人物の立ち絵、右に文章が表示されることである。
これにより、文章を縦書きに表示できる(初期設定では横書き)。
また、文芸的には邪道ではあるが、台詞は発言者によって固有の文字色が設定されており、読みやすさが増している。
ただし画面を縦に分割しているせいで立ち絵を表示するスペースが1人分しかないため、主人公以外に複数の人物がいるシーンでも人物は1人ずつしか表示されず、複数の人物が主人公を取り巻いているという雰囲気が乏しくなっている。
また、一枚絵のシーンでは絵に文章があまり重ならないよう、通常のノベル型アドベンチャーゲーム同様に画面の下部に文章が表示されるので、強制的に横書きになる。
縦書き表示可能な画面の縦分割は面白い試みだが、その後それが普及していない理由はこの辺にあるのだろう( Liar-Soft の『妖刀事件』のように採用例はある)。
画面サイズは800pix*600pixで、2000年という時代を考えると大きめのサイズだと思われる。
オープニング・ムービーの画質が極端に悪いが、当時の主要配布メディアが CD-ROM だったのと、動画・音声の圧縮技術のゲームへの導入が未発達だったことを考えるとやむを得ないだろう。(後日サウンドトラック CD の特典として高画質版がリリースされた。)

既読文章の自動早送り機能がないのは非常に残念だが、「次の選択肢までジャンプ」という機能があるので、プレイ時間の短縮は可能。
この機能は他の作品にも採用して欲しいものだ。
ただしどういうプログラム処理をしているのか、ジャンプする間の文章量が多いとジャンプするのに時間がかかってイライラする。
また、セーブ機能はセーブを行った地点ではなく、それよりも少し遡った地点からのロードになる。
システムとして恐らくシーンの始まりにロード地点の設定がされているのだと思うが、頻繁にセーブとロードを繰り返していると「痒いところに手が届かない」ようなもどかしさを感じる。
読み飛ばしてしまった文章の読み返し(バックログ)機能がないのも、今の時代から見ると少々辛い。

地味ではあるがオタクに媚びていないゲームデザインは、いわゆる美少女ゲームを敬遠する人にも馴染みやすいだろう。
シナリオにテーマの押し付けや説教臭さ、セカイ系的飛躍がないのも万人向けといえる。
伝奇ものとヒロインの虐待が苦手でないなら、アダルトゲーム入門として最適な一作だ。
中古市場でも良心的な価格に落ち着いているが、Vector や DLsite.com のダウンロード販売で購入するのが安くて手っ取り早い。

ちなみに続編と思しき作品『アトリの空と真鍮の月(仮)』が2009年の発売を目指して製作されているようだ。
キャラクターデザインがたかみちではないので、すっかり雰囲気が変わってしまっているが……。

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