供給過多なため決して景気がいいとは言えないアダルトゲーム業界で、2005年に設立された新興ゲームメーカー、あかべぇそふとつぅ。
馴染みのない珍奇な名前なのでずっと「あがぺぇそふとつぅ」だと思っていたら、ごく最近になって「 AKABEISOFT2 」だということに気づいた。
『車輪の国、向日葵の少女』はそのあかべぇそふとつぅが2005年に発売した、ノベル型アドベンチャーゲームである。
物語の舞台は、現代日本に似た架空の国。
この国には刑務所も死刑も存在しない。
法を犯した者は施設に隔離されるのではなく、その罪に応じて特別な義務を課せられる。
「特別高等人」と呼ばれるエリート役人が受刑者を管理・監督し、更生のための指導を行う。
課せられた義務を履行しない受刑者は強制収容所送りとなる。
更生の見込みがないと判断された受刑者は特別高等人によって命を奪われることもある。
主人公の森田賢一は特別高等人を目指す少年。
彼は最終試験を受けるため、7年ぶりに故郷の田舎町に帰ってくる。
試験官を務める特別高等人、法月に命じられるまま、彼は地元の学園に編入する。
その学園で賢一は、義務を課せられた3人の少女と出会う。
彼女たちに課せられた義務とは、次のようなものである。
- 「1日が12時間しかない義務」:1日のうち12時間は薬物によって強制的に昏睡させられ、残る12時間で食事や睡眠を行わなければならない。博打打ちなど怠惰な者に時間の大切さを教える刑。
- 「大人になれない義務」:親権者への絶対服従義務。子供に対して親権者からの申請に基づき課せられる措置。ただし親権者も子供の管理能力不足を問われる。
- 「恋愛できない義務」:異性への身体的接触の禁止。結婚詐欺師や性的に放蕩な者に対する刑。受刑者に触れた異性も罰せられる。
法月は最終試験として、彼女たちを管理・監督し更生させるよう賢一に命じる。
しかし彼女たちには「義務から解放されたい」という積極的意志がない。
果たして賢一は試験に合格することができるのか。
物語は5章から成る。
第1章では、物語世界の設定が説明される。
第2章から第4章は、各ヒロインの更生の過程が描かれる。
第5章では、物語に仕掛けられたトリックが明かされるとともに、絶体絶命の窮地に陥った主人公たちが難局の打破に挑む。
本作の一番の売りは、技巧に長けた構成のシナリオだと言っていい。
主人公が困難を乗り越えた、と見せかけて窮地に陥いらせる。
主人公が窮地に陥った、と見せかけて困難を乗り越えさせる。
その繰り返し。
一つの章の中だけで二転三転、どころか四転も五転もする展開に、プレイヤーは油断できない。
二転三転するのは物語の展開だけではない。
当初は主人公にとってもプレイヤーにとっても愚かしく思える少女たち。
彼女たちが葛藤に苦しんだ結果、弱い自己を超克したその瞬間は神々しさをも感じさせる。
主人公は未熟な少女たちを指導する立場であったのが、逆に彼女たちによって自己の未熟さを知り成長していく。
主人公が窮地に陥れば、彼女たちは主人公に助言を与え、その行動をもって主人公を鼓舞する。
そして彼女たちの助力を得た主人公は、再度彼女たちを救う。
主人公と少女たちの関係もまた、物語全体の中では逆転に次ぐ逆転を見せるのだ。
展開には随所に伏線が張り巡らされていて、驚かされることが多い。
「刑務所も死刑も存在しない」という基本設定と、一人称小説でよく使われる技法とを組み合わせた叙述トリックは鮮やか。
特別高等人である法月の悪役ぶりも見逃せない。
彼は現実を受け入れてしまった大人の良識、功利主義、権力の象徴であり、圧倒的な壁である。
そしてまた、主人公が取りえるもう一つの可能性でもある。
法月と主人公の衝突・対決は父と子のそれに似ている。
法月の過去はあまり語られていないが、どことなく『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーを連想させられる。
若本規夫による冷徹な演技が法月の存在感を引き立てている。
タイトルの「車輪」は、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』を踏まえていることは想像に難くない。
個人を踏み潰す社会の象徴だ。
タイトルの「向日葵の少女」は作中の少女たちのこと。
向日葵は作中で正義の象徴とされ、舞台となる田舎町には向日葵畑が広がっており町の象徴でもある。
かつて戦火により蹂躙されながらも再び咲き誇る向日葵の強さと美しさが、少女たちに重ねられている。
舞台設定は現代における社会制度やエリート主義の風刺ではあるが、社会批判的メッセージは乏しい。
死刑制度の是非や反戦・反ファシズムを問うようなものでもない。
どちらかというと、「強大な社会に対して脆弱な一個人がどう向き合うか」という関係性を扱った物語である。
シナリオは基本的に1本道で、作中の選択肢によって各ヒロインと恋人になるかならないかが決まる。
恋人ができた場合は濡れ場が用意されていて、エピローグが変化する。
二股ができないので、全ヒロインの濡れ場を見たいなら何回もプレイしなければならない。
しかし誰を恋人にしようとも、元のシナリオに濡れ場が挿入されるかエピローグに濡れ場が付け足される程度の変化しかないため、何回もプレイするインセンティブに欠ける。
同様の理由から、ある少女を恋人に選んだ場合辻褄が合わなくなる単純ミスな台詞があること、主人公が逡巡することなく一人の少女をあっさりと恋人に選ぶのが説得力に欠けることも欠点だ。
絵柄はロリコン系寄りだが、癖の少ない今時のアニメ絵。
システム面ではスタッフロールをスキップできないのがリプレイ時に鬱陶しいのでマイナスではあるが、それ以外は特に不満はない。
直近10箇所の選択肢部分で自動的にセーブする機能は親切だ。
演出面では特に斬新なものはないが、シーンを盛り上げるためにメッセージ表示部分が中央に移動したり、画面全体に広がったり、一枚絵がカットイン風に表示されたりするなど、多少の抑揚がつけられている。
音楽は緊張感のあるシーンに流れる激しいピアノ曲一曲が印象に残ったが、押しなべて平凡。
「泣きゲー」を求める向きの人にも、ギミックのある物語を求める向きの人にもそこそこの満足感があるだろうジュブナイルだ。

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