28 juillet 2008

『 CROSS†CHANNEL 』をプレイした

CROSS CHANNEL

クロスチャンネル ~To all people~<2800コレクション>

誰が作ったのか、『エロゲ名作ランキング』というアダルトゲームの格付けがある。
その中で「超名作」とされている作品の一つが、『 CROSS†CHANNEL 』。
2003年の作品。
『 加奈 ~いもうと~ 』についての記事で2006年中にプレイしたいと書いておきながら、はや2008年だ。
このたび「プレイせよ」という電波を受信し頭の中で響いたので、段ボール箱の中からディスクを引っ張り出してプレイした。
(本作には性描写が含まれた Windows 版と性描写が省かれた Playstation2 版があるが、今回プレイしたのは Windows 版。)

本作は「主人公の行動についての選択肢が物語中に時々現れ、それをプレイヤーが選択することで物語の展開が変化する」という、ノベル・タイプのアドベンチャーゲーム。
男性主人公の一人称視点で物語が語られて、学園を舞台にしていて、美少女たちが居て、主人公の親友が居る。
ああ、わかりました、ボーイ・ミーツ・ガールでフォーリン・ラヴ、それでもって努力の末に危機を脱して無事に帰還、恋人同士で未来へ歩みだすハッピー・エンドですね?
いやいや、とんでもない。
本作はそんなに甘くない。
(以下、表層的なネタバレあり。真相/深層は伏す。)

主人公は「群青学院」という学校の放送部に所属する少年。
享楽的であり、下ネタ発言やセクシャル・ハラスメントで周囲の少女たちをからかってばかり。
しかしその一方で内省的で知識は豊富、頭も切れるという、ギャルゲーやエロゲーでは類型的な主人公に見える。
そんな主人公が、夏休みの放送部合宿を過ごすところから物語は始まる。
合宿と夏休みが終わって、再び始まる学園生活。
しかし放送部員の人間関係には亀裂が入っていた。
部長一人だけが黙々と、校舎の屋上でラジオ放送用のアンテナを組み立てている。
他の部員たちは、ほとんど部室に出入りもせず、冷ややかな反応を見せる。
部員たちが部分的に断絶している中、主人公だけが部員全員とコミュニケーションをとっているようだ。
主人公は部長の作業を時々手伝い、一週間かかってアンテナは完成。
部員たちは不和を保ちつつも屋上に集まり、主人公の発声で放送が始まる。
だがその発声は、唐突で不可解な一言をもって終わる。

物語は突如、合宿の場面に戻る。
合宿は大失敗で、部員たちの不仲を悪化させるだけだった。
そして合宿地の山から出て彼らは気づく。
植物以外の生物が、神隠しのように姿を消していたのだ。
生きている人間は部員8人だけだった。
電力、ガス、水道、電波、全ての供給が途絶えた世界で、主人公たちは登校を続ける。
そんな状況下で部員たちの間の亀裂は深まり、悲劇が起こる。
だが、サバイバル生活7日目の昼になると、必ず物語は1日目に戻ってしまう。
彼らに一週間の記憶はなく、死人すらも元に戻っている。

繰り返される非日常の一週間の中で、主人公と部員たちの抱える個々の事情、人間関係の亀裂をもたらしている原因が浮かび上がってくる。
一週間をかけて部員の少女の一人と主人公が打ち解けあっても、世界のループによって人間関係がリセットされてしまい恋愛が発展することはない。

あることが元で、世界がループしていることに主人公は気づく。
だが、どうやったらループから脱することができるのか。
そもそも「ループもの」物語のようにループから脱しさえすれば、カタルシスのあるハッピーエンドが待っているのか。
いや、部員たちの苦悩と人間関係は解決しない。
人間関係の修復には一人につき一週間かかるため、時間が足りず実現は絶望的だ。
そもそも部員たち全員が仲良くなるような、都合の良いハッピーエンドなんて存在するのか。
団結と連帯の友情パワーで奇跡を起こして困難を克服しようにも、あまりに人間関係の亀裂が深すぎる。
プレイを進める中で積み重なっていく課題を前に、主人公が取った行動と物語の着地点とは?
それは本作をプレイしてのお楽しみ。

評判どおり、シナリオは秀逸だ。
プレイしながら「田中ロミオ(本作のシナリオライター)は天才だ!」と心の中で何度つぶやいたことか。
テンポのいい会話とモノローグに感心し、哲学やサブカルチャーの豊富な知識に裏打ちされたギャグやアイロニーに笑いを噴き出さざるを得ない。
それだけでも大したものなのだが、叙述トリック的なシーン構成を用いつつ、巧みに伏線を張ってプレイヤーを驚かせ、プレイヤーの関心を引き出しプレイヤーを飽きさせないようにしている。

キャラクターの内面設定も配慮が行き届いている。
ギャルゲーやエロゲーにおいては、キャラクターの性格や行動が幼稚だったり、世間ズレしていたり、現実離れしたりしていて、しばしば非難のもとになる。
『 CROSS†CHANNEL 』は、それを逆手に取って利用した。
「登場人物(部員)たちはどいつもこいつも、コミュニケーション不全を抱えた社会不適合者」と設定し、物語の要素として正当に組み込んだのだ。
社会に適合できず苦しむ者たちを苛むその「社会」を取り去ったらどうなるのか?
その答えを導く舞台として物語に据えられたのが、人類が消滅した世界なのだ。
この舞台によって、部員たちが抱える葛藤と、自己を取り巻く状況への反応様式が先鋭化・顕在化する。

・自己を抑圧する社会が消滅すれば、楽に生きていけるのか?
・自己を傷つける他者、あるいは自己が傷つけてしまう他者がいなくなれば、楽に生きていけるのか?
・自己を盲目的に受容してくれる他者さえいれば、楽に生きていけるのか?
・自己が依存できる他者さえいれば、楽に生きていけるのか?
・自己を肥大化させれば、楽に生きていけるのか?
・自己を捨て去れば、楽に生きていけるのか?

部員たちはそんな問題を体現するように各々が作りこまれていて、プレイヤーに問題を突きつける。
それは、プレイヤーにとって身近なものではないか。
ギャルゲー、エロゲーをプレイする人間はマイノリティであり、社会不適合者として差別、抑圧される一般的な状況を。
「ギャルゲー、エロゲーをプレイする人間は、現実の人間と接することが怖いからゲームで代償している。ゲームをプレイすることで現実逃避している」というよくある批判を、思い起こさせずにはいられない。
とはいっても、意識的であるにせよ無意識的であるにせよ、人間誰しもが直面する問題だ。
コミュニケーションが成立しているときには問題に無意識的であり、コミュニケーションが成立しなかったり歪んで成立したりするときには意識的になる。
コミュニケーションを正常に行うことができる人間は無意識的に問題を処理しているので、何らかのきっかけでコミュニケーションが不全な状態にならない限り、問題を意識することがない。
コミュニケーション不全を抱えた人間は慢性的に意識せざるを得ず、その意識に苛まされる。

社会不適合者ではない例外的キャラクターを配置して、コミュニケーション不全を抱えた人間のギャップを表現しているのも周到だ。
コミュニケーション能力が正常な人間がコミュニケーション不全を抱えた人間に接したとき――
コミュニケーション能力が正常な人間は、コミュニケーション不全を抱えた人間を理解できず苛立ち、怒ってしまう。
コミュニケーション不全を抱えた人間は苦しみ、ますますコミュニケーションから遠ざかるか、誤ったコミュニケーション方法を強化する。
悪循環の悲劇。

主人公が下した結論は、チャップリンが『独裁者』のラストシーンでぶちあげた演説のように、明白にプレイヤーに対する訴えである。
人間の本質とは……。
人生とは……。
これまで数多ある物語で語られてきた、シンプルで、陳腐なメッセージに過ぎない。
しかし絶望的に歪んだ心を持つ主人公が絶望的な状況で考察し行動した上での結論として提示することで、説得力を帯びる。
シンプルで、ありふれたメッセージを、説得力をもって語る――名作と呼ばれ、多くの人々の胸を打つ作品とはそういうものなのだろう。

陳腐な奇麗事なんか吐きたくなるほど嫌い、という人にも救いはある。
主人公の迎える結末は、人間に対する肯定どころか皮肉である、と解釈することも可能だ。
主人公の行動は英雄的、献身的どころか偽善であって、主人公は彼の犯した罪の報いを受けた、と解釈することも可能だ。
様々に解釈できる懐の大きさ、これも名作たる所以か。
私は『 Remember11 』の冬川こころのように、ロマンチックな解釈を選びたい。

人によってはプレイ当初の主人公の下品な言動に不快感を覚えるだろう。
狂騒的なコミカルさがくどいと感じるのも否定できない。
しかし、そこでゲームを中断するのは勿体無い。
彼の下品さと狂騒は、彼固有の事情によって強固に形成された、いびつな仮面だ。
極限状況で徹底的に自己に向き合うことにより、彼の仮面は暴かれてゆく。
仮面の下に潜んでいたものを刮目して見よう。
現れるのは、人間になることを願い、ついに人間になることに成功した怪物の物語である。

絶版で中古価格が高めなのが残念だが、プレミアムというほど極端な高値ではない。
中古価格が高いということは、中古買取価格が高いということだから、作品に満足できなくても損は少ない。
万人にオススメできる娯楽作品ではないが、作者が理屈をこね回すタイプの作品が好きな人には親和性が高いと思われる。

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コメント(2)

これって、確か、モバゲー小説大賞で優秀賞を受賞した作品が、ゲームのパクリだった、という、そのくだんのゲームですね。
(賞の名前は今調べて、埋めた↓)
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1037943.html

いや、紹介されているあらすじが、どっかで見たなあという既視感をおぼえたもので。

>歴傍さま
はい、そのとおりです。
思いっきりネタバレ記事ですね。というか実は正にその記事をプレイ前に読んだことがあるので、あらすじはプレイ前に知ってました。
それでも主人公の Why done it と How done it があらすじに書かれていないので、倒叙モノの推理小説のように楽しめました。終盤、主人公がその記事に書かれているように行動しているところにちょっとした波乱とどんでん返しが仕組まれてますしね。
割愛してますが実は中盤に Who done it 的サスペンス展開がありまして、意外な伏線の存在にプレイヤーを驚かせると共に物語の折り返し地点になるという仕掛けになっており、いちいち巧妙です。

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