2007年の9月に広島県を旅してきたときの記録。
旅立ちの前に訃報があった。
順番を考えれば私の方がよっぽど生きてる価値も無く先に死ぬべきだろうにと落ち込んだのだけど、既に宿の予約はあるし、やりたいことやってから死ねばいいやと結論づけ、予定通り出発する。
9月19日、新大阪から山陽新幹線の「のぞみ」でおよそ1時間半、広島に到着。
正午より少し前くらい。

過去、広島は自動車や電車で通過するだけで、降り立つのは初めて。
つまりここから行く先、全て私にとっては未踏の地なのである。
全てが新しい。
さて、1日目の目的地は宮島である。
JR の広島駅を出ずに在来線に乗り換えて山陽本線の宮島口駅で降りるのが常道なのだが、鉄道好きとしては広島電鉄に乗らずにおれない。
何せ原爆を食らっても3日後には一部区間で運転を再開したという広電。
輸送量、路線長が日本一という広電なのだから。
そんな広電だけあって、ターミナルである広島駅は多系統の列車が発着する。
路面電車の停留所であるにもかかわらず、何編成も進入できるよう長く作られている。
阪堺電車の天王寺駅前停留所みたいな貧相なものを想像してはいけない。

上記の電車は、最新鋭の5100系。
超低床車両だ。
一応説明しておくと、路面電車もバスも通常は床下に機械が設置されているので、乗客は乗り降りの際に段を上り下りしなければならない。
だが、超低床車両は機械を座席の下や天井に設置しているので、お年寄りや身体に障害のある人でも乗り降りが楽、という素敵な車両なのだ。
さらに5100系は連接車で、短い5つの車体が3つの台車で繋がっている。
お客さんがたくさん乗るからそれだけ車体もでかいということで、広電の繁栄ぶりが伺えるというものだ。
この時この5100系車両に乗ったかどうかはもう記憶にないが、とりあえずここから宮島口行きに乗った。
宮島口行きの路線は、広島市の中心部を横断していく。
広島駅から10分か15分くらい先、紙屋町のあたりが商業の中心地だ。
大阪とは違って、広島駅のあたりは商業の中心地ではない。
名古屋の商業の中心地である栄が名古屋駅から離れているのと似たような感じだ。
もちろん名古屋同様、広島駅そのものや周囲に商業ビルはあるのだけど。
通りに沿ってデパートやオフィスビルが立ち並ぶ光景に、焼け野原がよくぞここまで復興したものだと、感慨を隠せない。
いや、大阪だって空襲で焼け野原になったんだけど、広島が食らったのは核兵器ですよ。
人間って逞しいもんだ。
Wikipedia にある広島電鉄の路線図を見れば判るが、広電で広島駅から宮島口に向かうまでに停留所が沢山ある。
それだけではなく、広電西広島までは道路上を走るので、交差点で信号が赤になればその都度止まる。
というわけで、とても時間がかかるのであった。
広電西広島からは鉄道線……要するに路面電車ではなくて、普通の電車の路線。
車に混じって走るということはなく、砂利の上に枕木を置いて線路が敷いてある。
昔はこの区間だけ専用の高床の車両(普通の電車と同じ車両)が走っていたらしい。
今は路面電車仕様の車両がそのまま入線する。
プラットフォームだけは当時の名残で、1つのプラットフォームで高床車用の高い部分と、路面電車用の低い部分の2つに分かれている。
JA広島病院前という駅(本当に駅に隣接して病院がある。うるさそう)のあたりで山陽本線と並走し始め、地御前という駅を過ぎると、線路は海岸沿いを走る。
広島湾の眺めを十分堪能して、ようやく広電宮島口駅に到着である。

駅から出て左に行けば宮島行きの連絡船が出る桟橋がある。
が、私は右に行った。
まず、駅前のコンビニエンス・ストアで日焼け止めを購入。
9月も下旬になるというのに暑くてカンカン照りだから。
そして JR 宮島口駅方面にあるという店で、今日の昼ごはん――ご当地名物駅弁、あなごめしを買うのだ。

ついでに JR 宮島口駅にまで足を伸ばして駅舎を撮影。
田舎の駅とはいえ、著名観光地の玄関口だけあって、結構立派な作りをしている。
コンビニエンスストアもある。

ここにも有害図書追放という名のアホなポストがある。
こんなもので効果があるのか、そしてこんなものを置いていたら田舎丸出しじゃないかと現地の人々は疑問に思わないのだろうか。

JR 宮島口駅から真正面(奥)が桟橋だ。
ただし最初の交差点は歩行者の横断が禁止されているので、地下道を通らなければならない。
地下道への上り下りは階段かエレベーターで行う。
右手の道で桟橋方面の出入り口のそばにあるのが、お目当ての「あなごめし」を作っている「うえの」の店である。

折角店まで来たんだから店の中で出来たてを食べたらよかったと後から気づいたが、弁当の状態でも食べたことがないので悔いはない。
ちなみにこの日は平日なので店の前には私以外誰もいなかったが、土日祝日ともなれば入店を待つ人が出るそうだ。
あなごめし1つ1500円。

左は松大汽船、右は JR 宮島航路の桟橋。
今回は JR を利用した。
ちなみにJR の方は青春18きっぷでも乗船可能。
普通に運賃を払っても、片道170円だけど。

桟橋に着いた途端、目の前で連絡船が出航してしまった。
次の船は15分後。
腹も減っているので、待合室で弁当を頂くことにする。
「あなごめし」は、タレの染みたごはんの上に焼いたあなごを乗せ漬物を添えただけ。
シンプルだが、シンプルな分、調理の良し悪しが味に直結する……はずだ。
口に入れてみると……当たり前だがアナゴの味がする。
だがこんなに柔らかいアナゴを食べるのは初めてだ。
安いパック寿司にあるアナゴ寿司のアナゴのような舌触りとタレの存在感がない。
スーパーマーケットで売られている鰻の蒲焼と、鰻料理店で食べる鰻の蒲焼の違いに似ている。
腹が減っていて大抵のものを美味しく感じる状態だったので、美味しいと思ったのが正しい評価か不明だが、いつだったか、全国の駅弁を食べるのが趣味という人が TV 番組に出演して、「美味しい駅弁ベスト3」の中にこの「あなごめし」を入れていたのを考えると、美味しい駅弁の部類に入るのだろう。
1つ1000円ならなお良いのだけど……。

私も一人、連絡船に乗り――

凍えそうな鳥居見つめ泣いていました――

とか考える余裕もなく、あまりにも有名な厳島神社の大鳥居と社殿を船上から撮影してしまう。
航路が大鳥居の前を通るというのが、JR側の売り文句らしい。

宮島口側は、こんな景色。


宮島に上陸すると、鹿だらけ。
「安芸の宮島 白砂に 腰を下ろせば 鹿のフン フンフンフン 黒豆や……」
と口ずさみたくなるが心のうちに仕舞う。

桟橋を出て海岸沿いに歩くと、厳島神社への参道である。

参道の途中には、団体観光客が大鳥居をバックに集合写真を撮ることができる地点が存在する。


拝観料300円を払い、厳島神社に参拝。
典雅というか、貴族趣味な造りをしている。

本当に水面の上に建てられている。
海水に曝されてよく腐り落ちないものだ。
ここでの祈願は結局通じなかったが、神様なんて所詮そんなもんである。
御朱印の受付は拝殿の中の、お守りや札売り場の端に窓口がある。
巫女さんが言うには「代金はお気持ちで」ということなので相場通り300円を渡した。
しかし商売とはいえ、お金を渡した途端、目の前で露骨に金額を確認するのは神職としてお行儀がよくないような気がする。
口ぶりと顔つきは儀式でのように神妙なだけに余計違和感を覚えた。

これは江戸時代に建てられた能舞台。
なぜかここだけ朱に塗られていない。

出口から割とすぐのところに神社の宝物館がある。
中にあるのは刀剣とか絵画とか地味な代物ばかり。
一番派手なのは平氏が神社に納めた平家納経のレプリカで、キンキラキンの黄金色の紙の上に文字と絵が書かれている。
書き損じたら一体どうするんだろうと考えてしまうところが我ながら即物的だが、ともあれ平氏の栄華を偲ばせる一品である。
宝物館の前には大きな木の輪切りが置かれているが、これは先代の大鳥居の一部らしい。「写真撮影の方 後方注意」という張り紙があるのは、後方は土台が途切れているのに柵がないため。
カメラを構えて被写体を見つめたまま後ずさりすると後頭部から地面に叩きつけられる羽目になる。
宝物館を出た後は、折角なので「宮島ロープウエー」に乗り山を上ることにする。


神社裏手の小川べりで、小鹿を発見。
宝物館から宮島ロープウエーの駅までは、山側に向かって15分ほど上り坂を歩く必要がある。
しかも途中から森林公園みたいな場所に入るので、「本当にこの道で正しいのか?」という気分になってくる。
9月だというのに真夏並みの暑さの中、坂道を歩いてきたもので、ロープウェイの駅に着いたときには汗だくだった。
(ちなみに汗だくになりたくない人は土産物街と駅との無料シャトルバスを利用すればいいが、確か30分間隔の運行だったはず)
駅前の休憩場所にある自動販売機で飲み物を買い、扇風機の前に立って飲む。
汗が引いてきたところで、ロープウェイに乗り込む。

ゴンドラにエアコンなどあろうはずもなく、自然風だけが涼を感じる唯一の手段だ。
ちなみに乗ってから初めて知ったが、宮島ロープウエーは途中に駅があり、2種類のロープウェイを乗り継ぐ形になっている。
麓側はスキーのリフトのように多数の小型のゴンドラが循環する方式(循環式)で、山側は井戸の釣瓶のように大型のゴンドラ2台が同時に往復する方式(交走式)のロープウェイである。
途中駅の連絡通路は急な階段なので、年配の方や身体の不自由な人には辛いと思う。

頂上側の終着駅である獅子岩駅を出ると、サルの群れが出迎えてくれた。
サルが人間を襲わないよう、監視員も居る。
もともと島に居た野生のサルではなく、数十年前、観光開発のために業者が持ち込んで野生化したのだという。
よくある話だ。
ここからさらに歩くと古刹とか山の頂上とかに行けるのだが、暑いし歩き疲れたしでやる気がないので、駅の傍の展望台から海を眺めるだけで満足した。

広島方面。

江田島方面。

四国方面。

展望台はこんな感じになっている。
ゴロゴロしている巨石群は花崗岩だ。
山頂付近はあちこち花崗岩が露出している。


サルの世界では日陰で昼寝と毛づくろいの時間だった。
これがまた、なんとも気持ち良さそうなツラをしている。
眺めていると所作が人間そっくりに思えてくるのが不思議だ。
人間の群れもこう平和だとよいのだが。
しかしこんな中でもどういう理由なのかよく判らないが殺気立った個体が居て、威嚇をしては追いかけられて逃げ、戻って威嚇をしては追いかけられて逃げている。
そいつのせいで、ずっと静かというわけにはいかなかった。

帰り道、交走式のゴンドラ。

麓側の終着駅に到着。
ベンチの間にあるのが涼むのに使った扇風機だ。
駅から歩いて土産物街に向かいぶらついてみたが、もみじ饅頭の店ばかり。
石を投げればもみじ饅頭屋に当たる。
多分道の敷石に出来るくらいもみじ饅頭があると思う。
残る土産物は牡蠣と杓子くらいだ。
牡蠣の塩辛というのに興味をそそられたが、塩辛だけに生牡蠣がベースだから食中毒が怖いので断念。

厳島神社の方に戻ると、日が傾き、潮は退いて社殿の土台がむき出しになっている。
砂浜が広がり、右手の浜辺で水遊びに興じる人々の姿も見えた。

文部省がよって昭和6年に建てられた石碑。

こちらは世界遺産に指定されたことを示す石碑。

フェリー乗り場の建物の入口まで鹿が来ていた。
人を恐れるということを知らない。
後に聞くところによると、観光客の持つ食べ物をひったくってしまうということで問題になっているらしい。
島に鹿を食う天敵がいないから増えすぎてしまったのだという。

帰りの船にて。
インド人の団体客と乗り合わせた。
ここまで来れるってことは富裕層なんでしょうな。
帰り道は広電ではなく、JR の宮島口駅から山陽本線の電車に乗って広島駅まで移動。
広島駅から広電に乗り、今夜の宿のある中国電力前まで乗る。
そうそう、広電はワンマン運転の車両もあるけど、連接車の場合は車掌が乗務して、両替をしたり集金をしたり車内放送をしたりするのだ。
大阪、鹿児島、札幌で路面電車に乗ったことがあるが、人員削減のために車掌はとっくに姿を消している。
利用客が多い広島ならではの、新鮮な光景だった。
この日の晩御飯は、広島と言えばこれ、広島風お好み焼き。
一つの建物にお好み焼き屋が20店舗以上ひしめきあう観光名所「お好み村」を訪ねた。
店の TV でカープのゲームの生中継を観つつ、広島風お好み焼きにビール。
これが広島でなくて何であろうか。
地元民にとってはオヤツだから夜には食べない?
まあ気にしない。
そもそもお好み焼きとは違う作り方をしてるのにお好み焼きを名乗ってること自体が間違っているのだから、そんなことは瑣末なことだ。
宿は「ドーミーイン広島」。
普通のビジネスホテル。
比較的新しいのか、清潔感がある。
ユニットバス嫌いの私にとって、サウナつきの共同浴場があるのは良い。
たまたま私の泊まった客室は、PC が備え付けられていた。
OS は Windows Vista。
慣れてないからかもしれないけど、使いにくい OS に思えて仕方なかった。
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