2006年の初春くらいに読んだ本。
玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在』(中公文庫)
ISBN:4122045053
20代から30代の若年層が直面している労働問題を、様々な統計データを元にして論じた本。
そこで明らかにされているのは、中高年が優遇される労働政策、雇用慣行の実態だ。
「パラサイト・シングル」「フリーターの増加」は必ずしも精神論に帰せられるものではないことを著者は示す。
さらに定年延長がもたらす問題、転職にまつわる問題、所得格差、仕事内容の格差、成果主義の問題と、様々に問題点が指摘されていく。
その中で若年層が目指すべき道は何か、というと、著者によれば「自営業者になること」だそうだ。
本書のうち一章が自営業についての論考について割り当てられており、その末尾は「若年雇用者問題の将来は、若者が『自分が自分のボスになりたい』と思うかどうかにかかっている」という一文で締めくくられている。
ルドルフ・ヘス『アウシュビッツ収容所』(講談社学術文庫)
ISBN:4061593900
アウシュビッツ強制収容所の所長として、収容所の建設、収容者の大量虐殺を実行したルドルフ・ヘスの告白録。
ひたすら冷静に、仔細に彼の経歴と務めてきた仕事が語られる。
忠実に任務をこなそうとするクソ真面目な公務員の姿がそこにはある。
自分も収容所に入れられた経験があるし、収容者を虐待・虐殺したくなかったけど、資材や食料が足りないのに無茶な命令で収容者ばかり増えるし、総統からの殺せという命令だったんで仕方なかった……という論調は、公務員の悲哀が感じられて共感・同情する部分もあるけど、結局自己正当化だよなあ。
何より、被害者への謝罪の気持ちが全然現れていないのが問題だ。
とはいえ、ナチスが隠蔽しようとした強制収容所の実態と、「残忍だったり嗜虐的だったり頭のおかしかったりする人物でなくても、人は大罪を犯すことができる」という事実を示した点で、人類史に残すべき重要な一冊といえることは間違いない。
D・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』(河出文庫)
ISBN:4309462553
平凡なイギリス人の主人公のもとに、ある日突然工事業者がやってくる。
業者いわく、立ち退き期限が過ぎたので、道路建設のために強制的に家を取り壊す、と。
そんな工事は知らないと抗議していると、友人が現れ彼を連れ出す。
友人いわく、立ち退き期限が過ぎたので、銀河バイパス建設のために間もなく地球が強制的に消滅させられる、と。
友人の正体は、宇宙人向けの旅行ガイドブック『銀河ヒッチハイクガイド』を改訂するため地球にやって来た宇宙人だった。
友人の手で地球を脱出し、地球最後の生き残りとなった主人公は、訳が判らないまま無理矢理宇宙を放浪することになる。
小ネタ的ギャグが満載で、笑いながら「イギリスのコメディ TV 番組っぽいセンスだなあ」と思って読んでいたが、それもそのはず、作者はイギリスのコメディ TV 番組の制作に携わってもいた。
本書読了後、2005年制作の映画版の DVD を買って観たけど、面白さは原作には及ばない。
バカバカしい小説で爆笑したいと言われたら、オススメする一冊だ。
ちなみに本作には、コンピュータに「人生、宇宙、すべての答え」を答えさせるという有名なナンセンス・ギャグがある。
本作へのオマージュ的ジョークとして、「人生、宇宙、すべての答え」で Google 検索すると本作同様の答えが出てくることはファンには有名な話。
酒見賢一『語り手の事情』(文春文庫)
ISBN:4167656108
奇書、である。
舞台はヴィクトリア朝時代のイギリス。
メイドあるいは執事のような仕事をしているが、あくまで自らを「語り手」と称する謎の女性が語る物語。
彼女はある時は性に対する妄想を抱いた少年の筆下ろしを行い、ある時は女性になりたいと妄想する紳士をサポートして、妄想力で彼の肉体を女性に変化させる。
またある時は性奴隷を求めてやって来た SM マニアの男の前で降霊会を行い、依代となった少女に SM 行為をさせる。
傍観者のようにただ「語って」いた彼女だったが、かつて筆下ろしを行い今や青年となった男がサキュバスに犯されたのに際して、身を投じて彼と交わり彼を助け、彼とともに異空間へと去っていく。
フェティッシュな性談義、性行為が次々と描かれていくので、こりゃエロ小説かと思いもするけど、人間の肉体をもっと見ろ、本来備えている「性」の力というものをもっと見ろ、と著者は言いたいのかもしれない。
あとがきで著者が言うのは、これは「恋愛小説」だそうな。
で、結局「語り手」って何?
浅田次郎『椿山課長の七日間』(朝日文庫)
ISBN:4022643528
映画化もされた新聞小説。
映画の方は未見。
突然死した中年オヤジが主人公。
家族に別れを告げるため、天国から舞い戻ってくる。
ただし与えられた時間は7日間、肉体は全く別人の美女のもの。
自分の正体を明かすことはルール違反。
主人公が天国で同席した、同じく現世に未練のあるヤクザの組長、男の子も、生前とは正反対の姿と性格で現世に戻され、現世でやり残したことを果たそうとする。
そして彼らは、自分の人生がどのようなものであったのかを知ることになる。
その中には知りたくないものも、知っておかなければならないこともあった……。
「素晴らしき哉、人生!」的な作品。
しかし最後の最後で、主人公の父親である爺さんのたどる結末が……あれがなけりゃ、ハッピーエンド、大団円めでたしめでたし、だったのに。
楽しんで読んでただけに、味噌をつけられた感じ。
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