文明のあるところ酒あり。
世界中で生み出される酒の中で、今のところ私の一番のお気に入りはスコットランドにあるアイラ島のシングルモルト・ウイスキーである。
スモーキーなピート香に潮風を思わせる塩味、喉から胸に染みるボディ。
値は張るが、それに見合った心地よい酔いをもたらしてくれる。
そのモルトウイスキーの製造が遥か東の島、日本で始められたのは1923年のことであった。
場所は大阪と京都の県境にある山崎。
山崎蒸留所では今もなおウイスキーの製造が行われ、観光コースとして工場見学が一般に開放されていることで有名だ。
我が家からだと同じ大阪府内で交通の便も悪くない。
少なくともスコットランドに行くよりは気軽。
しかし見学受付は2名から、というのが障害になっていた。
ただでさえ知人友人が少ないのに、ウイスキーが好きだとか工場見学に興味があるとかで見学に誘えるような人間となると尚更居なかったからだ。
いつか行きたいと思い続けて幾星霜。
長生きはするもので、ついに山崎蒸留所に足を踏み入れる時が来た。

電話で見学の予約を入れ、蒸留所内に建てられた観光施設「山崎ウイスキー館」の2階に集合して見学はスタート。
若い女性の案内係に連れられて工場内に入り、ウイスキーの製造工程を見て回る。
ウイスキー好きなら承知のことだが、目で見て鼻で感じて確認、だ。
最初は仕込みから。
巨大なタンクに水と麦芽を投入して麦汁を作る。
タンクのある部屋に入ると、酒粕の香りを濃厚にしたような甘くて重い香りが充満していた。
ガラスで仕切られた隣の発酵桶から漂ってきた香りかもしれない。
麦汁は酵母の力で発酵し、マッシュ(もろみ)と呼ばれる低アルコールの液体となる。
これがポットスティルという装置で蒸留され、高アルコールの液体になる。
焼酎だと蒸留は1回だが、ウイスキーは蒸留を2回行う。
部屋は熱気でムンムンとしている。

写真の真ん中にあるのは、職人が蒸留された液体を掬って味見をするための窓。
蒸留されて出来た無色透明のこの液体を「ニューポット」という。
ニューポットは樽に詰められ、少なくて6年、長ければ数十年熟成され、琥珀色に色づくと共に穏やかな風味となる。
倉庫の中は薄暗く寒い。
でも埃っぽくはなくて、落ち着いた木の香りが漂い清涼。

光量が足らないので樽に押し付けて撮影してみたが、やはりブレてしまった。
これでウイスキーの原酒の出来上がり。
工場内の見学が出来るのはここまでだ。
商品化するには樽から取り出した原酒を水で割ったり、酵母や熟成法を変えて作った他の様々な原酒とブレンドしたりして瓶詰めするのだが、その過程は見ることができない。
見学客は試飲スペースへと案内され、「山崎12年」と「響17年」がセミロックで振舞われる。

量はシングル。
無料なのは嬉しいが、後のツアー客がつかえているせいか15分程度で早々と追い出されてしまった。
味はというと、「山崎」は穏やかで大人しい風味。
「響」はブレンデッド・ウイスキーだけあって尚更穏やかな風味に仕立て上げられていて、アイラモルトに慣れた舌には少々物足りない。
まずくはないんだけど。
見学・試飲を終えた後は「山崎ウイスキー館」2階にある土産店で「山崎樽出原酒15年貯蔵」と蒸溜所限定販売のシングルモルトを購入した。
昔「マッカラン」を買ったときにおまけで付いてきたショットグラスしか持っていないので、ショットグラスのセットもついでに購入。
さて、どんな味が楽しめることやら。
「山崎ウイスキー館」の1階では山崎蒸留所で作られた様々な原酒がビンに詰められディスプレイされている。


そして工場で作られたウイスキー製品のみならず、製品のもとになる原酒やサントリーが輸入している各国のウイスキー製品の試飲が有料で出来る。
しかし折角ここに来たのだからここでしか飲めないものを飲みたい。

というわけで、「ニューポットのミディアム風味」と「1970年に仕込んだ原酒」を試飲してみた。
「ニューポット」は100円、「1970年原酒」は2000円だ。

まずはニューポットから。
グラスに鼻を近づけると、仕込みの部屋で漂っていたあの香りに打ちのめされる。
舌に甘みはないがアルコール度数はウイスキーという超濃厚な甘酒と言った感じ。
あるいは出来損ないの泡盛だ。
このまま商品化は絶対無理。
罰ゲームの飲み物にしかならない。
これが樽の中で熟成されるとウイスキーになるのかと思うと感慨深い。
次に「1970年原酒」。
こりゃうまい!
お姉さん、もっとグラスになみなみと注いでくれと思う。
いやはや、熟成とは神の御業ですな。
ほのかに塩味もありアイラモルトに通じるものを感じる。
ビンに詰めて持って帰りたいほどだけど、仮に持って帰れるとしても月給が全部吹っ飛ぶ値段だろうなあ。
この日は「山崎12年」「山崎18年」に合うオードブルをウエスティンホテルの総料理長が提供するというイベントが企画されていた。
150食限定、ウイスキーとのセットで1人1,000円という。
折角なので受付の列に並ぶ。


供されたのは、食べるのが惜しくなるほど細かく作られたオードブル。
なかなかいける。
おかわりが欲しい。
家で飲むときこのオードブル食べたいわ、とはお連れ様の弁。
試飲しては休み、試飲しては休みの繰り返しでトイレが近くなるのには弱ったが、「もうちょっと飲みたいかな」という丁度いいくらいの酔い加減をキープ。
楽しい一日でした。
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