「エロゲー」と呼ばれるアダルトゲームの歴史の中で、1999年にはメルクマール的な作品が2つあるとされている。
一つは『 Kanon 』で、もうひとつは『加奈 ~いもうと~』。
アダルトゲームならではの官能的な描写よりもドラマ性を重視し、プレイヤーを泣かせにかかる「泣きゲー」というジャンルが確立されたとされる。
『 Kanon 』はプレイしたことがある。
『加奈 ~いもうと~』は『 Kanon 』ほどはオタク受けせずブームと言うまでは至らなかったとはいえ、1999年の話題をさらった作品。
だけど長らく敬遠していた。
だって「ヒロインは妹で不死の病を抱えている」という設定って、ありきたりでストレート過ぎませんか。
とはいえ、『腐り姫~euthanasia~』の「因縁」とか「情交」とかいう単語がまとわりつく粘っこい世界、「狂おしい妹」像に翻弄されてしまったせいで、「ここは一つ純でサラサラした作品で口直ししますか」とばかりに『加奈 ~いもうと~』をプレイすることにした。
『加奈 ~いもうと~』の物語は藤堂隆道という青年の視点で描かれる。
彼には二歳年下の妹がいる。
彼女の名は藤堂加奈。
幼くして慢性腎不全を患い、人生のほとんどを病院で過ごしていた。
隆道は幼い頃、両親の関心を奪う加奈を疎んじてよくいじめていた。
しかしある出来事をきっかけとして、加奈を守るために一所懸命となる。
ほとんど学校に登校できないため友人のいない加奈を支えながら、隆道は中学校、高校、大学と進学する。
加奈は1年遅れてどうにか高校の入学試験に合格した。
しかし病状が悪化し、高校に通う間もないままに彼女の死期は迫ってくる。
隆道はある女性となし崩し的に肉体関係を持ち交際を始めることになるが、やがて加奈を妹としてではなく、女性として意識している自分に気づく。
体裁としては選択肢によって物語の展開が変化するノベルゲーム。
台詞の前に発話者の名前が出るところなんかはアドベンチャーゲームのスタイルだが、画面いっぱいに文章が展開されるところは小説に近い。
エンディングは6つある。
しかし「不治の病を抱えたヒロイン」で「泣かせる」とくればお察しのとおり、基本的にば最後に加奈は死んでしまう。
古くは『愛と死を見つめて』、最近だと『世界の中心で、愛を叫ぶ』とか『劇場版 AIR 』とか、愛した若い女性が難病のために死んでしまうという話は実話もフィクションも沢山ある。
フィクションならば、「いかにヒロインを魅力的に描くか」、「そのヒロインに思いを寄せる男性にいかに感情移入できるようにするか」というのが課題となる。
『加奈 ~いもうと~』の場合、加奈は「清楚で無垢でおとなしくて、細い体にロングヘアー」というステレオタイプ的な病弱少女。
しかし主人公と加奈の幼少期からの10年間を順に追っていくことによって、主人公が加奈を大切に思う気持ちに同調できるし、それが異性に対する感情となっていることへの逡巡も受け入れやすくなっている。
主人公の幼少期の加奈への心情、主人公の初恋という伏線、末期癌のために若くしてホスピスで死ぬ叔母と先天的な病を抱えたその娘というサブエピソードを絡めたドラマ作りはお見事。
ステレオタイプ的な加奈のキャラクターについて、批判的な視点を押さえているところも好感が持てる。
病気のせいで世間ずれしていないから加奈はそうなっているだけであって、それを本質的な性格として求める者は諭されることとなるのだ。
初回のプレイで到達したのは、加奈が死なずに健康を取り戻す唯一のエンディングだった。
物語展開は上手いがあまりにも上手く行きすぎだろう、と思った。
複数のエンディングのうちの一つだから許されるけど、これが映画や小説なんかのように唯一のエンディングだったら確実に凡作と見なされるに違いない。
次に到達したエンディングでは主人公の献身も空しく加奈は死ぬが、伏線に唸らされた。
次に到達したエンディングでは壊れてしまった主人公にニヤリとさせられた。
しかし本作の本領が発揮されるのは、残り3つのエンディングに繋がるルートだ。
加奈は自分の死期が近づいてくることを悟る。
自暴自棄になりつつも、真っ直ぐ死を見つめるようになる。
残された時間を精一杯生きようと努め死を受け入れる。
ある決断を胸に秘め、安らかに死んでいく。
「願わくば、明日のわたしが、今日のわたしより優れた人間でありますように……」
「今日、海を見た。もう恐くない」
加奈の残した文章に胸を打たれる。
名台詞と言っていい。
「なんだ、『世界の中心で勝手に愛を叫ぶ』だ?勝手に叫んどけ、バーカバーカ」と思うくらいグッと来た。
成就しない恋愛、理不尽な死という悲劇にとどまらず、生きることの意味をプレイヤーに考えさせる深みのあるシナリオだ。
病気が治って生き続ける加奈よりも、加奈というキャラクターの存在が生き生きと感じられる。
いやはや、名作という世間の評判も納得です。
本作のシナリオを担当した山田一といえば2001年の作品『家族計画』のシナリオライターでもある。
プレイしたのは3年くらい前になるけれど、『家族計画』も心にグッと来るいい話だったなあ。
さすがいい物を書く人だ。
2003年の作品『CROSS † CHANNEL』はシナリオライターが山田一(田中ロミオと改名)とは知らずに関心を持っていたのだけど、今年中にはプレイしたいなと思う。
ちなみに『加奈 ~いもうと~』は1999年の作品だけあってパッケージソフトでの入手は難しい。
幸いなことに、アダルトゲームのダウンロード販売を行っているサイト「 BB5 」を利用して入手が可能だ。
プレイの度にオンライン認証が必要らしく、余計な情報も送信されていないかちょっと不安ではあるが……。
なお、2004年には絵を差し替えて声優による音声を加えたリメイク版『加奈…おかえり!!』が発売されているが、これも「 BB5 」で入手できる。
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