『 Forest 』をプレイする前に買ったのか、プレイした後に買ったのか。
記憶は定かではないけれど、長らく放置していた『腐り姫 ~ euthanasia ~』。
やっとプレイした。
もっと早くプレイしておけばよかったと後悔。
『腐り姫 ~ euthanasia ~』は『 Forest 』と同じくライアーソフトから発売されたアダルト向けノベルゲーム。
企画・シナリオを担当したのも同じ人だ。
『 Forest 』から遡ること2年、2002年の作品。
この物語は、徹底的に近親愛を描いたものである。
妹萌えなんて甘いものじゃない。
そこにあるのは、戦慄。
ある冬の日。
主人公の青年、五樹は父と妹が怪死し全ての記憶を失った。
そして半年後の夏。
記憶を取り戻すため、彼は義理の母と妹とともに生まれ育った故郷の町に戻ってくる。
かつて鉱業で栄え、今は寂れた山奥の町、「とうかんもり」である。
翌8月11日、彼は湖で「蔵女(くらめ)」という名の謎めいた少女に出会う。
真っ赤な着物に身を包んだ彼女は、腐り落ちた果実のような甘い匂いを漂わせる。
実は彼女の持つ爪に傷つけられた者は、内に秘めた情欲を満たされた末に「赤い雪」となって崩壊してしまうのだ。
五樹は彼女の爪に腕を刺される。
蔵女は迷子の少女として受け入れられ、五樹たちと過ごすことになる。
義理の妹は、蔵女が五樹の死んだ妹にそっくりな顔をしていることを指摘し怯える。
そして8月14日、とうかんもりは赤い雪で覆われ、死の静寂が訪れる。
だが時は巻き戻り、五樹は再び8月11日を迎える。
彼が湖で出会うよりも前に、蔵女は迷子の少女として受け入れられていた。
またも世界は8月14日に赤い雪で覆われる。
プレイヤーは初めから物語を始めようとするが、その4日間は等しく赤い雪で覆われて終わる。
だが、『 Prismaticalization 』のように同じ展開がループしているわけではない。
繰り返す4日間は、毎回どこか違っている。
その中で、主人公の過去がフラッシュバックされ、その残酷で忌まわしく痛々しく淫靡な記憶が徐々に明らかになっていく。
五樹を取り巻く女性たち――自称恋人の伊勢、従姉で幼なじみの夏生、義理の母の芳野、義理の妹の潤。
彼女らは、それぞれ彼に秘めた思いと情欲を抱いている。
蔵女に導かれて、彼女らは五樹と交わり、幸福のうちに赤い雪となって腐っていく。
一度赤い雪となった彼女らは、その後の新たな4日間で出会った時にはもはや五樹に執着していない。
あまたのノベルゲームのように、物語が分岐して主人公が様々な女性たちと結ばれるというパラレルワールドではない。
ある目的のために女性たちは一人ずつ消されていくのだ。
彼女たちは単なる通過点に過ぎず、主人公は一点に向かって進んでいく。
つまりこの物語はループに見せかけて、螺旋状に進んでいるのである。
4日間を繰り返していくことに気づき、徐々に記憶が蘇るとともに、記憶の中の「こうであったはず」な女性たちを失っていく。
無力に翻弄され傷ついていく主人公はどこに到達するのか?
蔵女の目的は何なのか?
螺旋の果てに真相が明らかになる。
女性たちに強引に愛されるだけの主人公は、ここで初めて愛し愛される者となる。
物語は完全なループのうちに閉じられる。
何と恐ろしく美しい情念であることか。
永遠の愛、と言えば聞こえはいいが、それは苦痛と背徳を伴って永遠に繰り返す愛なのだ。
死と生が混濁する。
兄と妹の交わりは父と娘との交わりでもあり、母と息子との交わりでもある。
究極の近親愛が描かれた!
敢えて気になった点を挙げるとするならば、終盤の展開が少し性急な感じがすること。
「蔵女は実は○○○でした」「それ何て SF ?」と面食らったままプレイヤーがプレイを終えてしまいそうだ。
プレイヤーには是非とも真のエンディングに到達して物語を結んで欲しい。
あと、盲点モードとおまけシナリオの必要性がいまいち判らない。
作中で流れるテレビ番組とラジオ番組同様、ファンサービスなのかな。
物語が余りにも閉じられてしまっているのも、ある意味欠点と言える。
サイドストーリーという形で拡大消費されることが非常に困難にしているからだ。
「萌え」という甘えに真っ向勝負を挑んで苛烈で過酷な愛を描いた作品がマスの支持を得られるはずもない。
マニアでカルトな支持を得つつも埋もれていく……。
演出面で特筆すべきは、画面構成が一般的なノベルゲームのような「背景に立ち絵」ではなく、ビスタサイズでペン画に彩色を施した風景にセピア色の登場人物がはめ込まれるのが基調となっていること。
登場人物のバストアップも併用されてはいるが、珍しい試みだ。
舞台の存在感が強調されて、伝奇的・退廃的な雰囲気作りに一役買っている。
赤い雪に覆われた終末の光景も、静謐のような佇まいのなかに鮮烈な印象を残し絶妙。
濡れ場の濃厚で粘っこいテキストと音声も世界観に馴染んでいて、単に「商品として流通しやすくするために一応 H シーンを入れときました」といった「感動作」とは一線を画している。
ポルノとしての「実用性」があるかどうかはともかくとして、ゾクっときたものがあったのは確か。
幻想文学や伝奇物語を好む人にはオススメできる佳作だ。
しかし生産・販売は既に終了している。
購入するには中古で流通しているのを探すしかない。
書籍と違って商品寿命と流通期間が短すぎるのは「エロゲー」の世界の悲しいところ。
こういう芸術性の高い作品は、廉価で長く息づいて欲しいものなんだけれど。

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