先日髪を切りに行ったときのこと。
毛を染めている間の時間待ちに、『関西ウォーカー』を読んでいた。
さて次に観に行く映画はどれにしようかな、と映画情報ページを眺めていると、『悪魔の発明』という文字が目に入った。
ダメ学生だったとはいえ、そのへん反応してしまう。
「ヴェルヌのアレか?」と思ったら、ビンゴ。
ジュール・ヴェルヌの小説を原作に、1950年代に発表されたチェコ映画らしい。
今年はヴェルヌ没後100周年。
「ヴェルニアンの端くれとしては観に行かないと」「チェコ映画でヴェルヌ原作ってことはアニメかな」程度の気分で何の前知識もなく劇場に向かった。
運命的な出会いとも知らずに……。
『水玉の幻想』
上映が始まる段になって、初めて『悪魔の発明』との同時上映で『水玉のなんとか』とかいう作品が上映されることを知る。
まずこちら、『水玉の幻想』からの上映。
読解不能なチェコ語(?)のタイトルとスタッフロールが流れたのち、雨がガラスを打ち付けている窓辺が、鮮やかなカラーで映し出される。
フォーカスがゆっくりと変わると、窓辺には親指程度のガラス製の人形が並んでいるのが判る。
カメラが右にパンしていくと、そのガラス人形を見ながらデッサンをしている青年がいる。
どうもデッサンはうまくいかないらしい。
紙が尽き、青年は物思いに耽る。
すると画面は科学映画のように、揺れる水面や波紋、葉の上の雫を映し出す。
雫の中の世界でガラスの熱帯魚が泳ぎだし、窓辺にあったガラスの人形がスケートを始める。
何とびっくり、ガラスを使ったパペットアニメーションだった!
タンポポの綿毛がピエロに変身し、優雅に滑る女性のガラス人形を追いかけていく。
綿毛君はどうやら彼女に恋してしまったらしい。
二人の間にガラスの壁が出現してしまい、前に進めない綿毛君。
彼の頭からピキーンと光の輪が出てガラスの壁は崩れ、破片に乗って綿毛君はガラス人形を追いかけ続ける。
しかし再びガラスの壁が現れて綿毛君は進めなくなり、悲しみに暮れながら彼は綿毛に戻っていく。
綿毛を映し出した水滴は葉から零れ落ち、画面は再び冒頭の青年を映し出す。
全ては青年の空想だったのだろうか……。
後で1948年の作品と知って二度びっくり。
戦後すぐなのにこんなに透明な美しさを込めた作品をカラーフィルムで製作して、今なお色褪せずに残っているとは……。
ガラス人形を使ったパペットアニメーションは後にも先にもこの作品だけらしい。
さすがガラスの国、チェコ。
『悪魔の発明』
間髪いれずに『悪魔の発明』の上映。
スタッフロールが流れたのち、ヴェルヌの本が積まれ、ノートが開いて置かれている机が映し出される。
モノクロ映画だ。
そこに主人公のナレーションが重ねられ、観客は物語へ誘導されていく。
またもびっくり、銅版画が動いてる!
ヴェルヌの小説は分類的には娯楽小説だから、銅版画による挿絵がある。
切り絵アニメーションだろうけど、あの挿絵が動いてるんですよ!
そこに実写の役者が違和感なく合成されて、あたかも本の中のヴェルヌ世界がそのまま目の前に出現したような感じ。
画面全体に縞模様のフィルターがかかっているし、室内の壁や小道具もいちいちご丁寧に銅版画の縞模様が描かれている。
屋外のシーンの背景も銅版画の書割で、わざと奥行感のない、平面的な画面が作られている。
役者をスチル写真にしてアニメーションと合成させているカットもあって、自由自在の特撮だ。
物語は、原爆を予見したとも言われる SFである。
蒸気機関車や自動車が地を走り、プロペラを大量装備した船が空を飛んでいる。
19世紀人が夢見た、科学の勝利した世界だ。
そんな中、「抑圧されたエネルギーの解放」を研究しているが、資金不足に悩んでいる科学者と助手の二人が誘拐される。
誘拐したのは、潜水艦で船を沈め、財宝を強奪している海賊。
科学者の技術を使った発明で、世界を支配しようとしているのだった。
呑気な科学者は、彼らが海賊であることにも研究を悪用しようとしていることにも気づかず、火山島の中に作られた秘密基地で資金提供を受け、研究を続ける。
助手は海賊の正体と目的に気づくが、科学者と引き離された上に軟禁され、科学者の研究を止めることが出来ない。
しかし彼は気球を作り、海賊の陰謀を記したメッセージを大陸に届けようとする。
更に彼は海賊の工事に協力する振りをして、島からの脱出を試みる。
助手の通報を受け、島には各国の連合艦隊が押し寄せて来る。
海賊は科学者の技術を使った超兵器で、艦隊を一網打尽にしようと迎え撃つ。
結末は観てのお楽しみ。
今時の SF 映画を観慣れた人間からすれば、物語の展開とアクションはあまりに牧歌的。
だけど銅版画の世界にはその緩やかさがマッチしている。
せせこましくてせっかちで、CG 頼みの現代人にはもうこんな映画は作れないんじゃなかろうか。
アニメの世界じゃ監督、カレル・ゼマンは有名人で、この『悪魔の発明』は日本でも彼の代表作としてよく知られているとか。
いやはや、今まで知らずに過ごしてきたことが恥ずかしい。
7月には DVD が発売されるようだ。
是非とも買わせていただきます。
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