17 février 2005

『花咲くオトメのための嬉遊曲』をクリアした

野球というスポーツを題材に創作された物語は枚挙に暇がないが、それらの物語のジャンルのひとつとして、女子プレイヤーの活躍を描いたものがある。

水島新司のマンガ『野球狂の詩』の後半、水原勇気編はプロ野球史上初の女子プロプレイヤーの活躍を描き、テレビアニメーションや実写映画にもなった。
川原泉の『メイプル戦記』は女子プレイヤーのみで構成された新規参入プロ野球チームを、池田恵の『無敵のビーナス』は女子高校野球チームを、高橋ツトムの『鉄腕ガール』は第二次世界大戦後に創設された女子プロ野球リーグをそれぞれ描いたマンガである。
テレビアニメーションには『野球狂の詩』のほかに女子高校野球チームを描いた『プリンセスナイン 如月女子高野球部』がある。
コンピュータ・ゲームでは女子高校野球チームの部員と親しくなりつつ大会優勝を目指す『ドキドキプリティリーグ』『ドキドキプリティーリーグ 熱血乙女青春記』『ドキドキプリティーリーグ Lovely Star 』や、オリジナル女子高校野球チームを作り大会優勝を目指すシミュレーションゲーム『高校野球道 Girl's 』の名を挙げることができる。

仮にこれらを「女子野球もの」と呼ぶとしよう。
「女子野球もの」の魅力とは何か。
誤解を恐れずに俗っぽく言えば、それは「スポーツがもたらすドラマ性的興奮」と、「女性がもたらす性的興奮」を同時に味わうことができ、一石二鳥、楽しさ倍増なところにある。
「女性がもたらす性的興奮」というのはポルノという意味ではなくて、もっと広く、女性の美とか可愛らしさとかが感情を喚起するという意味だ。

さて、「女子野球もの」にアマチュア作品ではあるが、コンピュータでプレイするノベルゲームが登場した。
LOVER-SOUL『花咲くオトメのための嬉遊曲』である。

バス事故によって足とチームメイトと野球を失った男子高校球児=主人公が、同校の女子ソフトボール部員に誘われて女子野球部を設立、マネージャー兼コーチとして勝ち上がっていく。
プレイヤーの選択肢によって物語の展開が変わる挿絵・音楽つきの小説で、展開によっては主人公とチームメイトの濡れ場もある。
一般的には、恋愛ノベルゲームの一種と捉えられるだろう。

「女子野球もの」においては女性キャラクターの魅力に重点が置かれ、野球と言うスポーツそのものについては大味に描かれることが多いが、『花咲くオトメのための嬉遊曲』は野球というスポーツが濃密に描かれているのが特徴的であり、白眉と言える点である。
シナリオを書いた人物は野球経験者か、かなりの野球マニアだろう。
どちらにせよ、野球というスポーツが好きだから題材としてゲームを作ったのだということがよく分かる、読み応えのある描写だ。
「女子野球もの」の魅力の両輪のうち、「スポーツのもたらすドラマ性的興奮」の側が堪能できる。

ただし、野球というスポーツにあまり思い入れのない人にとっては、マニアック過ぎて退屈もしくは冗長に感じられるかもしれない。
また、野球をするわけだから9人以上の少女たちが登場するのだが、物語の語り手によって人物を苗字で呼んだり名前で呼んだりするかが異なる。
私の頭が悪いだけだからかもしれないけれど、短いシナリオの間に覚えるのがちょっと大変だった。
文章を読みながら誰が誰だったか混乱してしまうのはマイナスポイントである。

ヒロインの一人、氷室乃雪と主人公の会話は好き嫌いが分かれるだろう。
乃雪は作詞家枯堂夏子の作詞した「恋愛の時空」の歌詞を巡って、恋愛論を語る。

「別の言い方をすれば、唯一性は複数性のネガとしてしか現れ得ないし、複数性は単独性のネガとしてしか現れ得ない。孤立した内面、をそうと認識させるためには、そうでないものが必要になるのよ」
「この時、愛における本質的な格差が like と loveの間にあるわけではない事が分かるわね。第三文型なんて下品な構文だわ。受動態をしか取らない愛の動詞、be affected こそが私たちにとってもっとも重要な愛の動詞なの」

こういうインテリくさい語りに拒否反応が出るか、面白く読めるかによって、このゲームに対するプレイヤーの評価が変わってくる。
私はこういうの結構好きだけれど。

また、彼女の語る恋愛観と同様に、『花咲くオトメのための嬉遊曲』の物語においては恋愛は「所与のもの」として扱われているため、ボーイ・ミーツ・ガール的な恋愛展開の盛り上がりがない。
このことが野球シーンの描写の濃さを一層際立たせている。
恋愛物語を期待してプレイすると、期待はずれに終わるように思う。

おまけに、濡れ場ではメガネをかけたまま行為を行ったり、母乳が吹き出たりと妙にマニアックな性的嗜好の描写となっている。
乃雪は眠るときもメガネをかけたままだ。
小野寺浩二は感激して涙を流すかもしれないが、私は欲情とか萌えとか言う前に笑ってしまった。

主人公のチームの少女たちはどれも個性的で魅力的な面々である。
彼女たちの物語をもっと読みたいところだけれども、残念ながら濡れ場まで展開されるヒロインは3名だけ。
プレイヤーが文章を読む速さにもよるが、5、6時間もあればゲームとして完全クリアできるだろう。
LOVER-SOUL はアマチュアのサークルから商業ブランドへと進むようだが、いつかシナリオの分量を増やした新版を発売してもらいたいものである。

ともあれ、「女子野球もの」において野球シーンの卓越した描写が光る『花咲くオトメのための嬉遊曲』。
美少女ゲーム一般を愛好する向きには物足りないかもしれないが、私個人としては満足度の高い作品だ。

前の記事:「POPFile のすすめ

次の記事:「『雲のむこう、約束の場所』@DVD

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://meta-metaphysica.net/mt/mt-tb.cgi/95

コメントする

プロフィール

空疎な中身のまま、サイト運営10年経過。

文学部出身ですが文学は苦手です。

Twitter

twitter.com/nemuribito/

過去の記事